精神科診断面接マニュアル(SCID)
the Structured Clinical Interview for Dsm-IV Axis II Personality Disorders: Scid-II
SCID‐2―DSM‐4 2軸人格障害のための構造化面接
HAM-D構造化面接SIGH-D
ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)を原版とした構造化面接版。わが国で使用されてきた17項目を修正した21項目評価改訂版では、初版刊行後に公表された大うつ病性障害の重症度評価に関する新しい知見の追加を行ったほか、MADRS日本語版10項目の各項目をSIGMAの質問文と一体化してシート毎に印刷可能なCD-ROM(日本精神科評価尺度研究会発行)が付いています。
M.I.N.I.―精神疾患簡易構造化面接法
観察者による精神科領域の症状評価尺度ガイド
-MADRSは、1979年に公表され、うつ病の臨床評価に世界中で広く使用されています。先生が、MADRSを開発しようというきっかけはどういうものでしたか?
MADRSを開発した頃の私はまだ若く、経験もあまりありませんでした。当時、同僚は項目の少ない評価尺度にはあまり関心はもっておらず、多くの項目を含む広範囲の症状評価尺度を用いた研究のほうが面白いようでした。しかし、私は、うつ病を反映する評価尺度の必要性を感じてMADRSを開発したのです。項目として、患者さんの70%にみられる症状に限定し、うつ病の症状であっても、発現頻度の非常に低い症状は変化への感度が低くなりますから、それは外しました。うつ病の主要な症状で、かつ発現頻度の高い症状を反映する尺度にしたかったのです。
-MADRSを開発される際に、どのようなところに配慮されましたか?
ひとつは、異なる文化でも理解できる症状に限定したことです。例えば、「depression」という用語は、アフリカや中東の文化では理解されないことがわかったのです。抑うつ状態はあるのですが、それを「depression」とは呼ばないのです。ですから「depression」という用語を使わず、どの文化にもある「sadness」(悲しみ
)という用語にしたのです。
また、「irritability」(いらいらする、怒りっぽい)という用語は、ドイツとスウェーデンでは「anger」(怒り)と訳されます。ですから、混乱を招くような用語を使わないよう、大変気を配りました。
一方、評価尺度の感度を調べるのに、いくつかの方法を用いました。個々の項目の感度を、70%以上のうつ病患者に発現した17の症状項目全体と比較して検証し、また個々の項目およびMADRS尺度を、CGI(Clinical Global Impression)尺度と比較して検証しました。
発現頻度がもっとも高い項目が、感度がもっとも高いということではなく、たとえば、筋緊張やつまらないことを気にかけるなどの症状は、比較的多かったのですが、治療による変化には感度は低く、また食欲減退と睡眠減少の発現頻度はそれほど高くないのですが、治療による変化には敏感でした。
ちょうどその頃、DSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)の委員会が開催されていたのですが、奇しくもリストの項目がMADRSとほぼ一致していたのです。MADRSは統計解析により、DSMは委員会のコンセンサスにより開発されたのですが、項目のリストは非常によく似たものだったのです。ただひとつMADRSに含まれていてDSMにはなかった項目に、tension(緊張)がありました。私は今でもこの項目はうつ病の中心的症状だと考えています。
▼臨床におけるMADRSの使用方法
-欧米では抗うつ薬を検討する多くの臨床試験で、重症度の変化を評価する尺度としてMADRSが盛んに用いられていますが、MADRSを用いてどのくらいの間隔で評価するのですか?
MADRSは特定の評価間隔を想定したものではないのですが、通常は1週ごとに前の週と比べるという方法で用いています。評価間隔が短かすぎると、項目ごとのバラツキが大きくなるという問題が出てきます。たとえば、よく眠れなかった翌日にぐっすり眠った場合など、その項目は大きく変化します。バラツキを少なくするためもあって、従来の試験では平均して7日間の状態をみているのです。こうすると、より安定した測定値が得られます。
-日本では、医師がそれぞれの患者さんに割ける時間は非常に限られているのですが、MADRSを使って患者さんを評価する際にどのくらいの時間をかけますか?
それは自分の仕事量と患者数により違ってくるでしょう。評価尺度を非常に速く使用できる医師もあれば、ずっと時間をかける医師もあります。初診時には、患者さんに、うつ病の主要症状の程度を調べる必要性を説明して、実際には10~15分かければ、正しく評価できると思います。再診の場合には、問題のある症状がどれかわかっていますので、それを評価します。うつ病を治療する際に、症状がどのように良くなっているかを把握することが重要です。
一方、寛解に入りつつある場合にはスコアは非常に低くなりますので、一つか二つの質問だけで済ませることはできません。一連の症状を尋ねて、不安や集中力、睡眠、興味などに残遺症状がないことを確認しなければなりません。
-寛解の話になりましたが、MADRSを用いた場合にカットオフ値をどうお考えですか?
健康者を対象に一連の試験を実施したことがあります。その結果、回復したうつ病と正常とを識別するカットオフ値は、MADRSの合計が12点であることが示されました。現在、大規模な試験ではこの値が用いられています。10点を提唱する人もいますが、私の経験では12点が妥当だと思います。
また、軽症うつ病は12~21点、中等症は22~30点、重症は30点以上と考えています。 重症のカットオフ値として35点とか28点を提唱する人もいるのですが、30点がもっともよく使われています。非常に重症なうつ病を診察したあとでは、次の患者さんの症状を過小評価してしまいがちで、その逆もあるでしょう。このような理由から、MADRSでは各レベルごとに症状を定義して、この問題を克服しています。
-MADRSを使用する際にとくに注意することはあるでしょうか?
MADRSを用いるときに、質問に対してあいまいな回答しか得られていない場合は、真の症状がなんであるのかを探る必要があり、最終的なスコアが正しいことを確信する必要があります。MADRSは半構造的インタビューで、1から順に質問していきますが、途中で前の項目について十分な情報が得られていないことに気付いたら、そこに戻って質問をしてください。患者さんには、このような一連の質問はこれまでなじみのないものでしょうから、すこし詳しく説明しながら質問していかなければなりません。
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1.モンゴメリー・アズバーグうつ病 評価尺度(MADRS)
2.ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)