精神療法における特異的要因と非特異的要因

精神療法における特異的要因と非特異的要因と言われることがある

specificとは、たとえば
認知行動療法で認知を再構成するとか
対人関係療法で対人関係つまりコミュニケーションを改善するとか
昔風の精神分析療法で自由連想法を用いるとか
それぞれに異なる技法をいう
nonspecificとはcommon factorといわれることもあり
それらの様々な技法に共通しての
暖かな共感とか
個人に関心を向けることとか
誠実さとか
いろいろな意味での好ましい態度や心がけ
そうしたものである
一応そのように分けられるとして
しかしそうでもないなと思うのは
それぞれの技法に習熟するプロセスで
精神療法家も形成されるということである
長年その技法を用いていると
その技法に応じた暖かさとか肯定的態度とか誠実さとかが形成されてくるもので
それは各技法で共通なのかといえばさてどうだろうか
たとえば富士山に登るようなもので
どの登山口から登るかで景色は違う
しかし最終的に頂上の景色は同じである
この比喩を使うとして
非特異的要因は汗の気持よさとか山の清々しさとか澄んだ空とかいえるのだろうけれども
やはりルートによってすこしずつ違うものだろうと思う
頂上はひとつだけだから
共通のものに違いないが
そこまで到達できる人は非常に少ないだろうと思う
頂上というものがあるとも思えない
全く何もトレーニングしていない段階での資質というものは確かにある
しかしその好ましい資質が
すべての相談者にとって好ましいものとも言えないだろう
いろいろな相談者がいていろいろな治療者がいて
相談がうまくいったとして
何が成功の要因なのか不明であるし
成功をとりあえず定義することは出来るとしても
それはとりあえずに過ぎないという信念は曲げることができない