「パリにエロイーズと呼ばれる乙女がいた。フュルベールという聖堂参事会員の姪であったが、彼はこの姪を愛していたから、彼女に学問を授けようと思っていた。」
アベラールは、この乙女が「男心をそそるあらゆる魅力を備えているのをみて」、彼女を誘惑しようとした。ときに三十七歳で盛名がすでに世に轟いていた彼は、「エロイーズ(十七歳)への恋情に燃えあがって」その名声と優れた容姿を利用しようと、好機をうかがっていた。友人の仲介で叔父のフュルベールと知り合いになると下宿料を支払う約束でその家に入った。叔父は、金銭欲が強く、また姪の学問が進歩する見込みから承諾した。その上、「まるで柔かな牝羊を飢えた狼に任せるように」、アベラールに彼女を教えるばかりでなく、遠慮なく折檻することさえも許可した。
このようにアべラールとエロイーズは、「まず住居を同じくし、ついで心を一つにしたのである」。教育という口実のもとにアベラールは愛に没頭した。本は開かれていたが、説明よりも接吻が多かった。その手はしばしば本よりも彼女の胸へ行き、その目は愛に輝いて乙女を見詰めた。「結局われわれは、愛のすべてを貪り尽くした」