Bryant RA, et al. Treatment of acute stress disorder: A randomized controlled trial. Arch Gen Psychiatry, 2008; 65: 659-667.
です。この研究では非性的暴力による被害を受けた人、交通外傷を負った人の中で急性ストレス障害を発症した患者を対象に全部で90名集め、それを(1)認知行動療法のコンポーネントである曝露療法を受ける患者30名、(2)認知行動療法のコンポーネントである認知再構成法を受ける患者30名、そして(3)何もしない患者30名、の治療成績を比較しています。
その結果、治療成績の差は歴然でした。治療終了後PTSDを発症したのは、曝露療法組では33%しかいなかったのに対して、認知再構成法組では63%、何もしない組では77%でした。さらに、治療過程を経過的に追ってみると、曝露療法では3回目くらいから患者の苦痛が激減してくるのに対して、認知再構成法ではあまりそうならないことが示されています。でも曝露療法は苦痛が強すぎて患者が嫌がり脱落する人も多いだろうと思いきや、脱落率は曝露療法で17%であり認知再構成法では23%であり、この差は統計学的に有意なものではありませんでした。
ということは何を意味しているのか?
これまでの研究で、急性ストレス障害の治療として認知行動療法が有効であることが示されていたのですが、通常の認知行動療法は曝露療法のコンポーネントと認知再構成法のコンポーネントから成ります。しかし、どうやら本当に効果的であるのは行動療法的なコンポーネントである曝露療法の方らしい・・・ということがまず言えます。
そして精神科・心理学の専門家が勝手に思っていたように、「患者は曝露療法には耐えられない」ではなかったのです。確かに、曝露療法は苦痛を伴う治療でしょうが、決して多くの患者が嫌で嫌で耐えきれないものではなく、そして効果ははっきりと高いものであることが示されているのです。
(なぜ曝露療法がこんなにも効果的なのか?論文の中でも議論されていますが、良く分かりません。ただ、おそらく戦闘関連の急性ストレス反応と同様なことがあるからだろうと思われるのです。つまり、記憶には状況依存性・文脈依存性がありますので、それを克服・克服するにはその当時の心理的状況下にないとうまく修正ができない、ということなのでしょう。)
論文の著者等はこんな風に締めくくっています:「これまでの調査では、多くの精神科・心理学の専門家は、曝露療法は副作用が強すぎるのではないかという心配から、曝露療法を外傷的ストレスを体験した患者に対して使用しない傾向があることが示されている。しかし、この研究の結果から曝露療法は認知再構成法に比較して、別に脱落率が高いわけでも苦痛が大きくなるわけでもないことが示されているのである。こうしたことから、外傷的ストレスに対する最前線の治療としては曝露療法を使用すべきであることについて、精神科・心理学の専門家をより良く教育する必要があるだろう。」
ーー
再度または再三暴露させて、脳をその状態において、その上で操作することが必要であるらしい。
理屈にもあっている感じはする。
古典的精神分析で退行を用いて
問題となっている脳の古い層をオープンしてから、操作を加えることと相似である。